ARCSEC平成19・20年度研究成果報告会 開催報告
日時:2009年6月5日(金) 16:00~18:00
場所:名城大学・天白キャンパス 共通講義棟北N103教室
平成21年6月5日(金)に「高度制震実験・解析研究センター(ARCSEC)」の平成19・20年度研究成果報告会が65名の参加者のもとで開催されました.ARCSECは,文部科学省の平成19年度私立大学学術研究高度化推進事業のハイテク・リサーチ・センター整備事業に採択された「制震構造化等の新しい概念による構造物の耐震性能向上プロジェクト」において設置されたものでありますが,今回はARCSEC発足以降の平成19および20年度の2ヵ年にわたる研究成果の報告がなされました.
はじめに,プロジェクト代表の理工学部建設システム工学科の宇佐美勉教授より,ARCSECの概要説明として,メンバー紹介,施設紹介,ARCSECが掲げる3つの課題についての説明の他,この2年間で実施した広報活動などについての報告もなされました.それに引き続き3つの各課題について,以下に示す研究成果報告が行われました.
【課題1】制震構造化等による土木・建築構造物の新しい耐震性向上策/耐震補強法の開発
課題1のとりまとめを兼任されている宇佐美教授より,「課題1-1:高機能ダンパーの開発研究」として,座屈拘束ブレース,せん断パネルダンパーの開発研究が順調に進んでいることが報告されました.次に「課題1-3:広域的な地震応答解析による鋼橋の地震安全性照査システムの開発」として,震源から橋梁までの一貫した解析モデルが新たに示され,それを用いての橋梁部材の損傷評価についての解析例について説明がなされました.さらに「課題1-5:膨張コンクリートと補強シートの併用によるRC部材の耐震補強効果システムの開発」として,近年耐震補強に多用されている膨張コンクリートによる補強の効果を精緻に予測できる解析システムの開発研究の進展状況を交えて成果報告がなされました.
引き続き,建設システム工学科の葛漢彬教授より,「課題1-2:鋼構造物の低サイクル疲労による破壊現象の解明と照査法の開発」として,地震時の橋梁橋脚の局部座屈と脆性破壊を統一的に照査する手法の開発研究について,実験的検討と解析検討の両者が順調に進捗していることの報告がなされました.
さらに,建築学科の武藤厚教授より,「課題1-4:大空間構造物の耐震安全性向上策および照査法の開発」として,RC連続体構造を対象とした複合非線形解析の解析例やRCアーチの震動破壊実験による解析手法の検証について説明がなされ,さらに,局部座屈および全体座靴を考慮したトラス要素モデルの構築やRCフレーム構造の解析についても報告されました.
【課題2】浮屋根と液体の連成を考慮した大型液体貯槽の耐震設計法/補強法の開発
課題2のとりまとめをされている建築学科の松井徹哉教授より,この課題で扱う浮屋根構造の石油タンクなどに発生するスロッシング被害などを用いて研究背景が示されました.その上で,「課題2-1:大型浮屋根式液体貯槽のスロッシング解析理論の確立」として,研究の進捗状況と得られた成果について報告がなされました.まず,線形ポテンシャル理論を用いた浮屋根-液体連成振動解析による各浮屋根構造においてのスロッシング解析解の導出が示され,それらの理論解を用いて,リブ補強,ダブルデッキ補強などの補強効果の検討結果について説明されました.さらに,模型振動実験による理論解の検証について報告されました.その結果,浮屋根と液体の非線形性を考慮したスロッシング解析理論の重要性が明確となり,現在,非線形スロッシング解析プログラムの開発研究へと進行しているとの説明がなされました.
【課題3】海溝型巨大地震時の地盤挙動を考慮した土構造物の耐震設計法/補強法の開発
課題3のとりまとめをしている建設システム工学科の小高猛司教授より,現在進行中の「課題3-1:鋭敏な自然堆積粘土の動的性質の解明」について,その進捗状況および成果の報告がなされました.鋭敏粘土地盤特有の地震被害や現状の粘土地盤における耐震評価法の問題点など,課題3の研究背景が示された後に,現在進行中の鋭敏粘土の動的力学特性を適正に評価し,高精度構成モデル構築のための実験システム開発を中心とした研究の進捗状況について説明がなされました.
以上の,研究成果報告の後,各課題につきまして,当日出席の3名の外部有識者の先生方から,講評をしていただきましたので,その概要を以下に示します.
【課題1に対する講評】 名古屋大学大学院社会基盤工学専攻 伊藤義人 教授
時宜を得た研究課題を精力的に進められていると感じた.制震構造化などにより,土木・建築構造物の新しい耐震性能向上および耐震補強法の開発において,部材レベルの新しい高機能制震ダンパーの開発から,橋梁レベルの補強法,そして広域的な鋼橋の地震応答の安全性照査システムの構築を目指されており,基礎的なレベルから最終的な設計や補強の評価システム構築を目指されており,バランスのとれた,かつ,大学の研究センターとして相応しい取り組みをされている.実験と解析をうまく組み合わせ,実用的なレベルまでの開発をされようとしていることも大事なことである.
具体的な研究内容に関して2点コメントしたい.1つ目は,高機能制震ダンパーの材料に,通常の鋼材だけでなくアルミ合金や形状記憶合金を試されているのも大変興味深い.アルミ合金は,最近は普通鋼程度の強度を持つが,ひずみ硬化は大きく,制震ダンパーの材料として必ずしも有利でないことを明らかにされているが,アルミ合金はひずみ速度効果が小さいことが,軽量性と耐食性とともに良いことの1つに上げられると思われる.形状記憶合金の結果がどのようなものになるか大変興味がある.2つ目のコメントは,地震力の想定に関してだが,制震部材の評価や低サイクル疲労評価において,どのように地震力を考えるかを検討するとよい.すなわち,1回の強震動が来た後で,余震や続けて別の断層が滑って地震が発生するということも考えられる.どの程度の大きさのものを何回くるかを決める必要がある.設置場所によって,想定する震源断層を考えて想定する場合と,一般的に震源断層を考えない場合に分けて考える必要がある.具体的に地震が来た後で,制震部材をいつどのように取り替えるかについての検討とも関係してくる.
今回の中間報告から,今後,研究を続けられ,有用な研究成果が期待できそうであることが良く理解できた.
【課題2に対する講評】 豊橋技術科学大学建設工学系 加藤史郎 教授
(1)都市機能・一般生活の安全に関わる,貯槽の防災対策上,価値の高い研究である.
新潟地震では,橋や建築が大きな被害を受け,石油タンクの炎上は,砂地盤の液状化とともに災害史の特筆すべき事項の一つである.災害のさ中,人々は,黒煙を長期間大量に吐いた石油タンクの炎上で恐怖に落としいれられた.阪神淡路大震災では,住宅や社会基盤施設に大きな被害を蒙ったが,石油タンクの炎上の無かったことは不幸中の幸いであった.しかし,2003年釧路沖地震では,恐れていた石油タンク災害が起こり,石油タンク災害の恐ろしさとともに,消化設備の不十分なことを思い知らされた.仮に,名古屋南部地域のタンク群に火災が生ずれば,市民を恐怖に陥れるだけでなく海上からの救助活動にも大きな支障をきたすことになろう.まさに,本研究が,都市機能,一般生活に関わる社会性の高い研究であることが再確認できる.
(2)工学的で精度の高い貯槽の地震時挙動の解析法を確立している.
従来の解析は,液体と貯槽の全体をFEMでモデル化する方法が取られ,大次元数値解析となり非効率的であり,各種の問題を分析し防災対策に生かすには多くの時間と費用・人材が必要となる.本研究では,このような困難な問題に対して,液体の動揺現象の理論解を援用し極めて精度が高く効率的に解析でき,かつ,浮き蓋の構造特性を適切に反映できる実用性の高い解析的方法を構築している.ダブルデッキの変形も正確にモデル化されており,デッキの塑性化等による液体動揺抑制のための新しい制振システムの可能性を示した研究ともなっており,極めて応用性が高い.
(3)極めて基礎的であり,かつ,設計法として採用できる成果である.
基礎的ながら,応用性の高い成果が得られており,高圧ガスや貯槽等の設計に有用に活用できるものとなっている.この成果を実用設計式に取り込むような行政的展開についても今後検討していただきたい.また,自治体等の防災行政にも是非つなげていただきたい.
(4)課題1のRC空間構造の成果をIASS等の国際基準改定に是非活用していただきたい.
高面内力によるコンクリートの3次元的な崩壊挙動を考慮しうる構成側を2次元シェル理論として発展させれば,工学的に精度が高く実用性のある研究となろう.さらに,最近の成果は,IASS(国際シェル空間構造学会)等の基準の改定にも反映できるような国際的な展開が期待できる研究となっている.
【課題3に対する講評】 名古屋大学大学院社会基盤工学専攻 野田利弘 教授
研究はゆるぎない事実に基づくことが重要である.この観点から本研究は精緻な実験データを提示している点が第一義的に評価でき,今後,信頼できる構成モデルの構築のための,適切なデータが提供できると考えられる.
地盤の動的解析の分野では,砂地盤の液状化を中心として研究されてきており,今では液状化後の地盤変形についても解析できるようになってきたのに対して,粘性土地盤の地震時挙動の研究は,砂地盤に比べて,十分に進んでない. 1985年のメキシコ地震では,震源から300km以上離れたメキシコシティーが大きな被害を受けている.また,1989年のロマプリエータ地震における高架橋被害,さらに古くは1964年のアラスカ地震における斜面崩壊など,鋭敏粘土地盤を起因とする地震被害は多い.その点からも本研究への期待は大きい.また,粘性土地盤では,地震後の圧密沈下の被害も重要であり,兵庫県南部地震ではポートアイランド全体の沈下も報告されている.本研究への注文としては,粘性土地盤の地震時挙動を対象とするならば,是非今後は地震後挙動も対象としてゆき,実験にもその要素を加えて欲しい.
戦後,戦前まで人があまり住んでいなかった沿岸域に多くの人が住むようになっており,今後発生する海溝型地震において,我が国はこれらの低地にこれほど多くの人が住んでいる状態を未だ経験していない.その点からも,本研究のテーマは時宜を得たものであると言える.
最後にプロジェクト全体への要望であるが,地盤から上部構造へと各テーマがリンクした研究になることを期待したい.
以上の講評の後,平成19・20年度研究成果報告会の最後として,プロジェクト副代表の松井徹哉教授より,講評いただきました外部有識者の先生方への御礼,当日の参加者への御礼が述べられるとともに,今後の研究のさらなる発展へ向けてのARCSECメンバーを代表しての決意を述べられ,成果報告会が閉会されました.
なお,当日報告されました研究成果報告が下記よりダウンロードできます.
当日のプログラムと開催報告
ARCSEC平成19・20年度研究成果報告書
講演会写真集
受付
会場
宇佐美 勉 教授
松井 徹哉 教授
小高 猛司 教授
武藤 厚 教授
会場の様子
伊藤 義人 教授(名古屋大学)
加藤 史郎 教授(豊橋技術科学大学)
野田 利弘 教授(名古屋大学)
研究報告会ポスター